DHCに対する名誉毀損

2ちゃんねる(2ch)のメールマガジンで名誉を傷つけられたとして、大手化粧品会社のDHC(ディーエイチシー、本社・東京都港区)が 2ch管理人の西村博之氏を相手取り、1億円という高額な損害賠償を求めて提訴しました。


メルマガに書いた皮肉が新たな火種に

2003年9月、化粧品・健康食品販売会社DHCが、2ch管理人が発行するメールマガジン「裏口ネット情報:2ちゃんねるメルマガ」で名誉を傷つけられたとして、 損害賠償を求める訴訟が行われました。

DHCは2002年4月、自社が製造する健康食品に国内では使用が禁じられている酸化防止剤(エトキシキン)が混入した疑いがあると公表し、 製品を回収しました。ちょうどその頃、2ch掲示板内でのコメント削除を求める裁判を西村氏を相手どって起こしており、 その裁判の経緯を伝えるメルマガ文面の中で西村氏が製品回収事件について皮肉として言及したものです。


▼2002年4月2日、6月5日発行のメルマガより▼

「DHCは食品に枯れ葉剤を入れたりと、なかなかチャレンジャーな会社」

「11万人以上に枯れ葉剤を食わせた」

化学物質エトキシキンが、ベトナム戦争で使われた枯れ葉剤に入っていたことは確かですが、 あくまで酸化防止剤として添加されていたものであり、それ自体が枯れ葉剤なわけではありませんでした。 DHC側は事実無根で、明らかな名誉毀損にあたるとし、西村氏のメルマガ(推定読者数10万人)の影響力から、1億円と高額な損害賠償を請求します。

裁判の経緯

過去最高クラスの賠償請求額

2ch訴訟の多くは、掲示板に書き込まれた第三者発言を削除しなかった「不作為責任」を西村氏に問うものであるのに対し、ここでは自身の記述が問題とされました。

メルマガ事件に関しては2003年5月頃、麻布警察署に刑事告訴された後、民事の法廷に持ち込まれる流れになっています。

原告であるDHC側の訴えは名誉毀損。一方被告の西村氏は、過去の名誉毀損裁判の判例を引用し、行為の合法性を主張しました。


▼第1回口頭弁論における西村氏の主張内容▼

公共の利害にかかわる事実に関する情報発信で、かつ指摘が事実だと証明された場合、その行為は民法上の名誉毀損には当たらない。 もし事実であることが証明されなかったとしても、情報発信者がそれを真実と信じるに相当する理由がある場合には、違法ではないと見るのが正当である(1961年6月23日の最高裁判決)。

相手が大手企業ということもあり、前年に争われた削除依頼をめぐる訴訟の損害賠償(6億円)につづいてさらに1億円が請求され、 2つの裁判で相手が求めた賠償額は7億円と、過去最高クラスです。


判決は2ch敗訴

2ちゃんねらーによる不買運動の影響も考慮

2003年9月3日。DHCの訴えに対し、東京地裁の大橋寛明裁判長は、「枯れ葉剤は混入しておらず、記載に科学的根拠がない」と名誉毀損の成立を認め、 被告の西村氏に700万円の支払いを命じました。

また裁判長は、「食品添加物として禁止されている薬品が商品の健康食品に混入した疑いがあるにすぎないと認識していながら、 意図的に使用したかのような記述をしてDHCの信用を著しく傷つけた」と認定。 判決ではエトキシキンと枯れ葉剤を同一視した記述について、「科学的に別の物質。もっと慎重に調査すべきだ」と指摘しています。

問題のメールマガジンを見た読者らが、2ch掲示板に3491件の書き込みを行い、不買運動を呼びかけるなど影響が広がったことを考慮し、 名誉棄損訴訟としては比較的高額の賠償額(700万円)が算定されました。


裁判が企業に与えるマイナスイメージ

結果としては原告勝訴に終わりましたが、このケースのように原告が名のある企業の場合には、 報道により企業ブランドにマイナスのイメージがつきやすくなることも事実です。

そんなリスクを想定し、事実無根、誹謗中傷の書き込みに目をつぶっている企業はどれほどあるでしょうか。

2chに限らず、個人がネットで自由に発言できる時代。その文字表現に対する責任、対価を「誰が負うのか」という、むずかしい問題です。

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